ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの本「日の名残り」。
この本は日本人とイギリス人とでは感想が違うと思います。
イギリス文学作品と言っても過言じゃないと思います。
第二次世界大戦時代のイギリスの歴史が関係してくるので、世界史に弱い私は素直に本や登場人物に関する感想を述べたいと思います。
この本は面白いというより、読んでいて切なくなることが何度もあります。
あらすじ
主人公はイギリス人執事のスティーブンス。
以前は同じイギリス人のご主人様・ダーリントン卿に30年以上仕えていましたが、ご主人様が亡くなります。
その後、屋敷はアメリカ人の大富豪に買い取られ、スティーブンスは大富豪・ファラディ様に仕えることになります。
新しいご主人様であるファラディから休暇をとるように提案されたのとほぼ同時に、昔ダーリントン卿のもとで一緒に働いていた女中頭のミス・ケントンという女性から手紙をもらい、その休暇を彼女を訪れるために使うことにしたスティーブンス。
その旅の道中、昔の回顧録が始まります。
スティーブンスは過去の栄光が忘れられなくて、過去に囚われています。
スティーブンスにとってかつてダーリントン卿に仕えていた自分が誇らしくもあり、全てだったのです。
時代は変わり、新しいご主人様であるファラディ様に仕えることになってもやはり過去の栄光に縛られています。
そして、執事たるもの「品格」が必要としつこいくらいのこだわりよう。
屁理屈の塊みたいな人で読んでいて途中若干イラっとします。笑
こんな人を友達、彼氏、旦那さんに絶対したくないわーって女性なら思うはず。
かつてのご主人様であるダーリントン卿は本当は正義感にあふれる人だったにもかかわらず、結局はその正義感が利用されてしまうのです。
そしてダーリントン卿の晩年はナチスの協力者という噂が広まり、悲惨なものとなります。
スティーブンスは執事としての品格にこだわるあまり、自分という個性を殺します。
執事として仕事を完璧にこなそうとするあまりご主人様が間違った道にいっていても絶対に意見しない、そして同じ執事である父親に対しても、そして自分に想いをよせていた手紙をくれたミス・ケントンに対しても執事としての態度を取り続けます。
ミス・ケントンに再会し、その帰り道スティーブンスは桟橋で物思いにふけります。
見知らぬ人と話しながらスティーブンスはやっと今までの自分と向き合うことができ、涙するのです。
そしてこれからは前向きに行こうと決心したところで物語は終わります。
作品が作り込まれている
カズオ・イシグロさんのこの作品は時間が過去、現在と行ったり来たりします。
時間をかけると時間軸においていかれるので、一気読みおすすめです。
それにしても時間の使い方というか記述の仕方が本当にうまいです。
言語力がないのでうまく言えませんが。
さらに私だけかもしれませんが、この作品の翻訳の仕方が絶妙です。
本物の執事がどんなものか知りませんが、こんな感じなんだろうなとより想像を膨らませてくれる翻訳になっています。
次はもう少しイギリスの歴史を勉強してから読んだらより楽しめそうです。
誰にでも過去に後悔はある?
過去を後悔している人や、文中にもでてくるように「あのとき、もしああでなかったら、結果はどうなっていただろう」と思い悩むことありますよね。
1つもないって人は何も考えないただのアポーか(笑、本当に強い人だと思いますが、生きている上で過去があるから今があるわけで、過去を後悔しても仕方ないと頭ではわかります。
言われなくてもわかってるんだよ、わかてるんだよ〜〜っていうのが人間の性ですよね。笑
どうしても前に進めない人、過去にとらわれてスティーブンスのように過去に縛られている人は「日の名残り」を読んでみてはどうでしょう?
桟橋でスティーブンスがたまたま出会った男性が言います。
実はこの「日の名残り」はかなり前に友人に勧められて読んでいました。
その時はふーんって感じでした。笑
しかし、インパクトが強かったので自分がもう少し大人になって色々と昔を振り返るようになったらわかるようになるのかもと当時は思いました。
そして、それから月日は流れ、カズオ・イシグロさんがノーベル文学賞を受賞したということで思い出し、久しぶりに再読しました。
初めて読んだ日から…人生色々ありますよね。
まだまだですが、過去を振り返る気持ちがちょっとだけわかるような気がします。
人生本当に何があるかわからないですよね。
たとえ自分が誠実に生きていると思っていてもみんなが平等に同じ幸せがこないのが人生ですよね。
だからこそ自分の運命を受け入れながら前に進む強さが必要なのかもしれないと思わされた作品でした。
年齢を重ねるたびに読み返したい本の1つです。